貫汪館 横浜支部稽古

暦の上では一年で最も寒いとされる大寒の前々日、貫汪館横浜支部は通常通りの稽古でした。
遠く広島から上京して、古武道振興会の新年会と常任理事会に参加された館長を駅までお迎えに上がります。
無事に合流して、刀をお預かりして、拙宅まで。
すっかりお疲れのご様子ですが、荷物を置いて一服していただくと、あっという間に夜の稽古の時間です。
明日の講習会に先立ち、本日の通常稽古もご指導いただけることになっています。

 

館長と一緒に体育館へ向かいます。
校門のカギを開けていると、聞き覚えのある話し声が。
ふと見ると予想通り、名古屋西支部長とデンさんでした。
 名古屋西支部長は明日の講習会に参加のために上京され、本日の稽古にも参加と。名古屋から新横浜は新幹線で1時間30分ですから、広島よりも近いくらいです。新横浜に宿泊すれば、あざみ野まで市営地下鉄で15分。とても便利です。
 北大阪支部長も参加予定だったのですが、残念ながらお仕事の都合で不参加。
 デンさんは、今までもこの稽古日記にご登場いただいている会員さんのことです。ですがいつまでも“会員さん”では味気ないですし、今後会員さんが増えたら区別がつかなくなりますし、でもお名前をお出しするのもはばかられるので、こうお呼びすることにしました(ちなみに、我が家の美人秘書による命名です)。

 

お二人は駅から歩いてくる途中で一緒になったとのことでした。
名古屋西支部長は、横浜支部へは初めてのお越しです。
駅から学校の道のりは直線でわかりやすいのですが、冬の夜は暗くて校門の位置がわかりにくいのではないかと心配しておりましたので、ひと安心しました。
お二人は昨年の本部講習会で面識がおありでしたが、面識がなかったとしても、夜の住宅街を刀を担いで歩いている人がいればそうとわかったかもしれません。
私もよく知らない道場に初めて行ったときには、それっぽい人の後をこっそりとついて行ったものです。
ただいずれにしろ、スマホのナビを見ながらのお越しでしたので、

なんにしろ杞憂だったかもしれません。便利な世の中です。
昔、あちこちの道場を巡り歩いていた頃を思い出します。
当時、インターネットは今のように普及していませんでしたので、

路線図も時刻表も地図も、すべて紙で調べるような時代でした。
知らない場所に道具をかついで一人で稽古に行くのは、いま思うと、

小旅行のようなものだったのかもしれません。
目的は観光や遊楽ではなく稽古ですが、私にとってはそれが楽しみだったのでした。

 

体育館に明かりをつけて、モップ掛け。三人だと早いこと早いこと。
着替えて刀を準備。
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6時30分になって、稽古開始です。
館長が前で我々三人は下座に並び、正面への礼、互礼、刀礼をして、帯刀まで。
館長が横にどかれるので、おやと思っていると、
さて、いつもどおりの稽古をしてください、と。どっしゃー、青天の霹靂
いやいやいや、てっきり館長が指導してくださるものとばかり思っておりました。
でもって、指導しているところを見ますからと。ちょーぷれっしゃー
でもまあそれもそうかと思いながら、なかば覚悟を決めます。

心水鳥、身は土壇

 

斬撃から。とのお声。
お二人と向かい合って立ち、号令を掛けます。
何回か繰り返して、館長から何点かご指導をいただきました。
そけい部を弛めること、大きく振らずに手元に落とすこと、など。
いずれもすでにお伝え済みのことではあります。

 

大森流はどこまで教えましたかと。
まだ初発刀しかお教えしておりません、と正直にお答えします。あせ
初発刀から。一本抜いて見せて、一緒に抜きます。
館長は「デンさん(とはおっしゃいませんでしたが)はお上手ですね」と。
とても素直で一生懸命な良い生徒さんなので、とお答えしました。
生徒も良いが、先生も良い。よく教えている。とのお言葉。光栄至極
いやいや本当に、会員1号さんがとても良い人でよかったです。
何点かご指導をいただきましたが、いずれもすべてお伝え済みのことでした。
繰り返しお伝えしてもなかなか腑に落ちず聞いていただけないようでしたが、館長からも同じことを言われれば、あらためて心に染み入るかもしれません。

 

しばらく繰り返していると、次に進んでいいのではないかとのこと。
そうすることにいたしました。

 

左刀。さとう。他流では右。林崎系では右身。大森流では、左を斬るから左刀。
右を向いて座り、左に90度回転して抜き付けるだけ。

あとは初発刀に同じ。ではありません。

少なくとも、貫汪館の無双神伝英信流においては。
右真横を向いて座り、90度回転しての抜き付けでは正面に正対してしまいます。
初発刀と同じように半身で抜き付けるには上体は90度以上の旋回が必要です。

ですが下体の旋回は90度程度です。
そのためには、そけい部の弛みが必須です。
ましてや左足前の抜き付けです。長寸の刀は、生半可では抜けません。
上体、上肢、下肢、足先を地面に垂直に立てて、腰を上げて水平回転。
これでは貫汪館の抜き付けはできません。
初発刀と同じように柄手、鞘手。礼法と同じように転がるようにしながら、わずかに左右のバランスを崩します。
そうすると、そけい部の弛みが回転を促し、廻ろうとせずとも自然に廻ります。
重心は床の上にありますが、そこからさらに沈むつもりで。床の下まで。
便宜上、回転、旋回、転体、廻る、などの言葉を使いますが、

体感としては回転はありません。
そけい部を折り込む、沈む、体を開く、そういった感覚が近いかと思います。
水平に回転して、左足が前で抜きにくいからと腕先で抜こうとすると、
かえって抜けなくなってしまいます。

また、大森流の左刀は英信流表の鱗返と同じ、との説明を聞くこともありますが、私にはそのようには感じられません。

どちらかと言うと、鱗返は右刀と同じ感覚を覚えます。

左刀は、大森流と英信流の中では少し特殊な動きのような気がします。

 

デンさんが止まってしまいました。動けなくなってしまったようです。
この繊細さが有り難いことです。
お伝えした内容を吟味することもなく、ただ水平回転して腕で刀をぶっこ抜き、ほら抜けたではないか、これで何が悪いのだ。というのが普通かもしれません。
ですが、それでは上達はありません。
デンさんはまだ、立っていてもすぐに腰が突っ立ってしまいます。
腰を落とすと大腿部が激しく緊張し、あっという間にプルプルと震え出します。
抜き付けや斬撃、血振るいでも、まだ極める癖が顔を出します。
まだ、そけい部の弛みが理解できていらっしゃいません。
その状態では、我々が求める回転は、とてもできるものではありません。
一度立ち上がっていただき、膝と腰を弛めて、はずみ車のように左右にツイストしてもらいます。弛めることができないと、回ることはできません。
できたりできなかったり。作為的に腰を回しても、何の意味もありません。
まだまだこれからです。やることがあって楽しみですね。

 

左刀ができないことを確認して、次に進むことに。
できるまで次に進まないのでは、いつまでも次の業に進めないことでしょう。
初発刀が完璧に抜けるまで、いったい何年かかることでしょうか。
前の業ができなければ先の業ができないのは当然ですが、先の業が前の業を導いてくれることもあるはずです。
それが先達の遺してくれた業の体系かと思います。
左刀はとても難しい業だと思います。と最後にもう一度お伝えしておきました。

 

右刀。うとう。他流では(ry
これこそまさに、廻りません。ただ体を開くだけ。
上体は抜き付けの半身以上に開いていますし、刀も鞘もすでに開いています。
ただ左右に分け開くだけ。
少しでも回転しようという想いが出ると、あっという間に回り過ぎてしまいます。
少しでも抜こうという意識があると、腕で抜いてしまいます。
ただ体を開くことによって、刀が抜け、離れます。それで十分です。
右刀はある意味とても簡単です。意識さえ変えることができれば。
左刀がとても難しいのと、対照的かつ対称的かと思います。
左刀右刀ともに、廻るのではなく膝を立てる、という意識は共通しています。
右刀の稽古が、左刀の動きのヒントになるかもしれません。
しばらく繰り返します。

 

次に進んでいいのではないかとのお許しを得て、さらに先に。

 

當刀。とうとう
左刀が90度回転だとしたら、當刀は180度回転です。
もちろん実際には90度以上の回転ですし、180度以上の回転です。
そしてやはり、廻りません。膝を立てるだけ。
左刀以上のそけい部の弛みが必要なのは言うまでもありません。

右膝頭を軸に180度回転して、左足を左横に一足開きながらの抜き付け。ではありません。

さてさて敵は、どこにいるのでしょうか。
そしてなぜ、名称は後刀ではないのでしょうか。

英信流表の浪返と同じとの説明を聞くこともありますが、私にはそのようには感じられません。

 

大森流は、今日はここまで。
そけい部の弛みができていませんから、左刀右刀は大変苦労されました。
陽進陰退刀は、さぞやもっと苦労されることでしょう。
今から楽しみです。
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大石神影流
試合口五本
陽之表五本

 

館長は引き続き、横で見ていらっしゃいます。
元に立って打太刀をやり、お二人に交代で仕太刀をしていただきました。
夜の住宅街ですので、気合はなし。
明日の講習会の予習です。さらっと流して、何点かご指導いただきました。
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詰合

詰合はできますか、と。やればできます、とお答えしました。
同じように元に立って打太刀をやり、お二人は交代で仕太刀を。
やはり、上手ですねと。この短期間でよくここまでと。
型の手順を覚えているという意味ではなくて。体の遣い方のことです。
型の手順は、どちらかといえばあまりまだよく覚えていらっしゃいません。
打太刀が動きを引きだしている段階と言えるかもしれません。
もしかしたら、他の方とでは動くことはできないかもしれません。
さらっと通して、やはり何点かご指導いただきました。
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館長が前で、終わりの礼

 

居合が上手になりましたなあ。と言っていただくことができました。
毎日独りで抜いている成果でしょうか。
抜き掛かりの柄手についてご指導をいただきましたが、それ以外は言うことがないと。
柄手は、納刀の際に気になっていたことと同じ点でした。
抜き付けと納刀は裏表ですから、ちょうど良いヒントになります。
講習会後の独り稽古の直近の課題の一つとすることといたします。
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着替えて拙宅に荷物を置き、四人で駅前のジョナサンへ。1時間半ほど歓談。

デンさんはご自宅へ、名古屋西支部長は新横浜のホテルへ。
館長と拙宅へ戻り、入浴してまた歓談。
1時過ぎに就寝となりました。

 

さて明日は横浜講習会です。
稽古日記のアップまでは、あしからずまたいましばらくお待ちください。

H26.1.21